油圧ショベルに乗った王子様~ノーブルな土木作業員は元気娘を愛でる~
思わず、渡守さんを見上げていた。
なんでそんな、嘘をつくんだろう。

「昔、あなたとどういう関係だったか知らないですけど。
今は俺のものなんで、手を出さないでもらえますかねぇ」

見せつけるように渡守さんの手が私の頬にかかり、目をあわせさせる。
じっと見つめたまま、まるでキスをするかのようにねっとりと彼の親指が私の唇をなぞった。
レンズの向こうの熱を帯びた瞳に、背筋がぞくりとする。
唇だけを緩めて僅かに笑い、余裕たっぷりの視線を挑発するように渡守さんは彼へ送った。

「べ、別に僕はそんなつもりは。
ソイツとお幸せに!」

動揺した様子の彼は吐き捨てるように言い、足早にその場を立ち去った。

「なんだ、あれ」

不快そうに言い、私を庇うように肩を抱いて渡守さんが歩き出す。
少しだけ歩いて連れてこられたのは、近くの駐車場だった。

「乗ってて」

彼がSUVタイプの外車のロックを解除する。

「あ……」

戸惑う私を残し、彼は精算に向かった。
ロックが解除できたってことは彼の車に間違いないんだろうし、おそるおそる乗って待つ。

「お待たせ」

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