油圧ショベルに乗った王子様~ノーブルな土木作業員は元気娘を愛でる~
それどころか同期が辞めたのはお前たちの連帯責任だと御曹司に無理難題を押しつけられ、もうひとりいた同期は身体を壊した。

それからの私は誰かを好きになるのが、付き合うのが怖くなった。
きっとまた、裏切られる。
尽くしても空回りするだけだ。
さらに御曹司の女性への不誠実な態度が恋を苦手にしていった。
渡守さんは彼とも御曹司とも違う。
わかっているけれど気持ちがついていかない。

「璃世はいっぱい、つらい思いをしたんだな」

渡守さんの手が伸びてきて、私の頭を軽くぽんぽんする。

「わかった、じゃあ無理にとはいわない。
ただ、俺が璃世の傍にいるのは許してくれ」

この人はどうしてこんなに優しいのだろう。
なんで私はこの優しさを受け入れられないんだろう。
胸の中がいっぱいになって、息が詰まる。
それでも黙って頷いた。

私を住んでいるマンションの前で渡守さんが降ろす。
そのまま、彼も降りてきた。

「璃世」

彼の腕が、私を包み込む。

「人に抱き締められるのって、リラックス効果があるらしい。
嫌だったら、ごめん」

「……いえ」

厚い胸板が頼もしい。
それになんか、いい匂いがする。

< 38 / 57 >

この作品をシェア

pagetop