油圧ショベルに乗った王子様~ノーブルな土木作業員は元気娘を愛でる~
しかし眼鏡の向こうからじっと見ている彼は言わなければ許してくれそうになかった。

「その。
……社長の息子と喧嘩、して」

きっと呆れているだろうとそろりと彼をうかがう。
けれど彼の表情は変わらなかった。

「喧嘩って、なんで?」

彼の目にはバカにするようなところはまったくない。
こんなに真剣に聞いてくれるのならば、私もそれに応えるべきだ。

「後輩が彼に食事を無理強いされて困っていたので抗議しました。
彼女だけじゃありません、ほかにも何人か、彼にセクハラなんて言葉では片付けられない行為をされた人がいます。
それでもう、我慢できなくなりました」

すんでのところで彼氏さんが気づき、一命を取り留めた先輩。
電話の向こうでずっと泣いていた後輩。
もう、あんなのを見るのはごめんだ。
ぎゅっと強く拳を握り込んだせいで、爪が手のひらに食い込んだ。

「……頑張ったんだな」

その言葉が私の胸に染みていく。
不意になにかが、私の頬を転がり落ちていった。

「えっ、あっ」

慌てて目尻を拭うが、それは次から次へと落ちていく。

「あっ、その」

「うん」

彼の手が伸びてきて、私の拳を握った。
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