油圧ショベルに乗った王子様~ノーブルな土木作業員は元気娘を愛でる~
わかっていても、あの時間に戻り後輩から今にも泣き出しそうな、必死に縋る目で見られたらやはり、カッとなって食ってかかっている自信がある。

「君は頑張った、偉いよ」

「偉くなんかないです」

彼は褒めてくれるが、私はただ考えなしに御曹司と喧嘩をしたに過ぎない。
もしかしたら私のせいで、さらなる被害者が出たのかも。
そう思い至ると身体が冷えた。

「少なくともその後輩はきっと、君に感謝しているよ」

「……そう、言ってもらえると嬉しいです」

彼の手がまた、ぽんぽんと私の手を叩く。
それで幾分、私が救われた。

「あーもー、お腹空いたな!」

勢いよくベンチから立ち上がる。
彼が話を聞いてくれたおかげで、前向きに動こうという気力が湧いてきた。
お金はないがバーコード払いの前借りで、とりあえずお腹いっぱいなんか食べよう。
仕事が見つからなければ実家に帰ってもいい。
……後輩は今後の幸せを祈るしかできないけれど。

「なんだ、腹減ってるのか」

少し遅れて彼も立ち上がる。
並ぶとかなり背が高い。
背の低い私など、見上げないといけないくらいだ。

「メシ、食いに連れていってやるよ」

< 9 / 57 >

この作品をシェア

pagetop