ブルー・ベリー・シガレット

一糸纏わず





「黒羽さんって、存在がエロいっすよね」


 仕事の休憩中。社内の喫煙所で煙草を咥えていた俺に、後輩の松木まつきが言った。

 臭いがつくので仕事中の喫煙はよろしくないと思いつつ、どうしても腹が立ってしまいやむを得ずここに来ている。なるべく誰にも迷惑かけずに自分の心を落ち着かせるには喫煙くらいしかできることがない。

 仕事ができない奴は嫌いだ。効率悪く、だらだら要らない事ばっかりやる。苦しい顔を見せびらかして残業代を稼ぐ輩がこの世で最も嫌いかもしれない。

 嫌いなものは増えるばかりだが、自分の機嫌は自分でとるのが大人である。幼少期から感情の起伏を露わにしないほうだったが、それは何も思わないというわけではなく、自分が何かを思っていると相手に悟らせたくなかったのだ。

 だから今日も部下にぶつけることがないようにと静かに席を立ったというのに彼はにこにこしながらついてきた。あほだから。


「そう?」

「男の俺から見ても色気すごいっすもん、なんなんでしょうね?」

「なんなんだろうねえ」


 ふざけ半分、八つ当たり半分でわざと松木の顔に向かって白い煙を吐き出した。手で振り払う彼は眉を顰めてけほっと咳をする。

 松木は人懐こくてかわいい奴だ。俺のすぐ下についてくれる直属の部下なので、助手と呼んでいたり呼んでいなかったりする。


 自分は新卒から外資系の製薬会社に勤めており、もうそこそこの年数が経過した。後輩も増えたし、稼ぎにも大きな不満はない。小さな不満はある。それは、そう。
 
 とはいえ苦労の少ない人生、関わった女性がひたすら闇に堕ちていくという厄介体質でちょうどバランスが取れるくらいだ。

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