孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
「それはまた……。ギルド長には相談した?」
「いいえ。まだ、というか、相談する時間もないというか」
「ふぅん。気付いても良さそうなもんだけど、ギルド長も魔獣の活発化で忙しいしね」

 レオの言う通り、ギルド長は単なる職員よりも更に多忙である。自ら足を運ぶということをしない貴族は、何か困り事があればいちいちギルド長を屋敷に呼びつけるし、冒険者に支給する武器や備品を安定的に調達するため商会に赴くのも彼の仕事だ。そのためギルド長はマーシャたちよりも外に出ている時間が多く、日が落ちてからヘロヘロになって帰ってくることが殆どだった。
 補佐役が欲しい、このままだと死んでしまうと口癖のようにこぼしているギルド長を見ると、受付嬢からの嫌がらせを相談するのも何だか気が引けてしまう……などとマーシャが語ると、レオは難しげに唸った。

「まぁ……あの人もう十年以上ギルド長やってるんだし、そんなにヤワじゃないとは思うけど……。それこそ受付さんが潰れちゃう方が困ると思うよ」
「そう、でしょうか」
「うん。逆に言えばあのギルド、受付さんぐらいしか依頼に役立つ情報くれないし」
「へ?」

 間の抜けた顔で呆けてしまうと、頬杖をついたレオがあっけらかんと笑う。

「予備調査の情報って、ギルド内で共有してるとはいえ、その取捨選択は受付の人間がするからね。天候の傾向とか、標的以外の懸念事項まで伝えてくれる人って少ないんだよ。基本は僕らに投げっぱなし」
「えっ……でも特別依頼に関しては地方の要覧も最新のものを参照して、支給品と一緒に資料を添付するようにと教わりました」
「あはは。本当はそうしてほしいんだけど、そこまできっちりしてくれるのは受付さんとか、他のギルド支部でも片手で数えられるぐらいかな。だからいっつも僕は受付さんのところで依頼を受注してるわけ」

 マーシャは彼の話に衝撃を受けてしまった。
< 10 / 33 >

この作品をシェア

pagetop