孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
 言われてみれば確かに、ベリンダたちの対応時間が自分よりも短いとは思っていた。マーシャはそれが経験の差だとか、冒険者から言い寄られて無駄な時間を食っていたからだとか、てっきり原因が自分にあると考えていたのだが──あれはベリンダたちが受付のマニュアルを守っていなかったからなのか、と。
 マーシャが呆気に取られていると、彼女の表情を眺めていたレオがふっと眦を下げた。

「受付さんがいなかったら、僕はあそこで特別依頼なんて受けてないよ。死ぬかもしれないし」
「そんな、死ぬなんて……」
「それぐらい慎重にならないと駄目ってこと。前もって周辺の情報を提供してくれれば、それだけで余計な心配が減って標的に集中できる。僕が毎回こうして生還できてるのも、受付さんの優しさのおかげだね──あ」

 それまで穏やかな笑顔を浮かべていたレオが、少々慌てたように身を乗り出す。そうして懐を探っては「しまった」と言わんばかりに眉を顰め、仕方なしにグローブを外した手でマーシャの頬に触れた。

「大丈夫?」
「……あ。す、すみません」

 硬い指先に涙を拭われたことで、マーシャはようやく自分がぼろぼろと泣いていることに気が付いた。
 心身共に疲弊していたところへ優しい言葉を掛けられたおかげで、マーシャの涙は止まる気配がなかった。思えば、こんな風に誰かと腰を据えて話をすること自体、子爵夫妻が亡くなってから初めてのことかもしれない。
 なので別にマーシャにとっては悪い涙ではないのだが、突然泣かれてしまったレオは彼女の心境など知る由もなく。珍しく焦った様子で逡巡し、「そうだ」と膝を打った。

「楽しいことを考えよう、そう、例えば……ええと」

 彼は荷物から新聞を取り出すと、マーシャの前にそれを広げる。日付を見るにどうやら先月のものらしい。
 マーシャは彼が指差した記事を読んでみて驚いた。

「子爵位を受け継いだロネ家が事業に大失敗、借金苦で一家離散……」

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