孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
「──こ、侯爵家の三男……!?」

 辛うじて声は抑えたものの、マーシャは驚きを禁じ得なかった。
 レオは本当の名をレオナルド・オルドリッジといって、つい数年前まで王宮騎士団に所属していた貴族令息だった。彼自身は最初から騎士として生きるつもりだったのだそうだが、長兄の病死をきっかけに家督を巡る争いが起きてしまい、揉め事を嫌った彼は早々に騎士団を辞して冒険者になったのだとか。
 その際に籍も抜いてしまったらしく、今はただのレオだと彼は笑った。

「僕は子供の頃から騎士教育しか受けてこなかったからね。ただの剣術バカに当主なんか務まらないから、後継は絶対に兄さんだと周りを説得……したんだけど、納得してくれない人もいてね。仕方ないから家を出てきたんだ」
「お兄様は心配なさったのでは……」
「定期的に手紙は送ってるよ。元気でやってる」

 オルドリッジ家は王宮騎士団の団長を何度も輩出したことがあるほど、武勇に秀でた由緒ある家門だという。ゆえに先祖の血を色濃く継いだ三男のレオを当主に、との声が少なくなかったそうだ。順当に行けば次兄が当主になるべきだろうに、一部の親族は頑なにレオを推したのだとか。
 確かに、レオは他の冒険者が「<白銀>の称号を与えられるだけのことはある」と皆が口を揃えるほどの実力者だ。どんなに危険な魔獣を相手にしても、彼さえいれば勝機が見えるどころか全員が無事に生還できるというのだから、その腕は疑う余地もない。
 マーシャはぽかんと口を開けてしまったが、しばらく考えた後にぼそりと尋ねる。

「……そういえば、他国で王族の方を助けて爵位を授与されたと小耳に挟みましたが」
「そうだった。ただのレオではなかったかな」

 まるで他人事のように語るレオを見る限り、やはり地位や名声にはあまり関心がないのだろう。彼の場合は自分が出来ることをして、困っている人を助けて、そうしていく内に評判が付いて来ただけのこと。
 彼が凄腕の冒険者であることは知っていたが、思った以上に凄い人物と関わっていたのだなとマーシャは息を呑む。

「えっと……それで、もしかしてレオさんは私のことをご存じだったのでしょうか……? その、子爵令嬢だった頃の私を」

 レオはその問いを受け、気まずそうに後ろ頭を掻いた。

「……どうか気を悪くしないでほしんだけど」
「はい」
「…………十年ぐらい前から」
「え……」
「ほら引いてる」
「あ、いえ! び、びっくりして!」

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