孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
 十年前といえば、マーシャが孤児院から引き取られて二年ほど経った辺りだろう。当時ようやく貴族令嬢としての振る舞いが板に付いてきて、少しずつ同年代の貴族子女とも交流を始めるようになった頃だ。
 と言っても、孤児だったことを引け目に感じていたマーシャが、積極的に彼らと話すことが出来なかったのは言うまでもない。
 過去を苦い面持ちで振り返っていると、そんな彼女を見ていたレオが苦笑まじりに口を開いた。

「士官学校に通っていた頃、子爵を屋敷まで送り届けたことがあるんだ」
「……もしかして、街道で馬車が壊れてしまったときですか?」
「そう。『娘の誕生日だから早く帰らなくては』と大層困っていらっしゃったから、僕で良ければお送りしますよってね」
「お、覚えています! お義父様が見知らぬ方と一緒に帰宅されたと思ったら、お顔を真っ青にして馬から降りて……」
「ちょっと馬を飛ばしすぎて酔われてしまったんだよね。申し訳ないことをしたよ」

 レオは心底申し訳なさそうに目を逸らしたが、彼はきっと義父の焦り様を見て急いでくれたのだろう。そんなに後悔しなくても良いのにと、マーシャはつい小さく笑ってしまう。
 レオは彼女のそんな反応に安堵した様子で微笑むと、懐かしむように続けた。

「夫人が呆れながら介抱をされる間、君も心配そうに子爵を見詰めてた。けど、何故かお二人の近くには寄っていかなくて……遠慮してるように見えた。だから馬に載せたままだったプレゼントを降ろして、君に渡したんだ」
「……!」

< 14 / 33 >

この作品をシェア

pagetop