孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
 ゆっくりと目を見開いたマーシャは、こくこくと頷く。
 義父が用意してくれたプレゼントは、十歳の少女ではよろめいてしまうほどの特大サイズのぬいぐるみだった。
 歳上の少年からおもむろにそれを託されたマーシャは、自然と笑顔を浮かべて義父の元へと駆け寄ったのだ。

「あのときの方がレオさんだったのですね。私、ろくにお礼も言わずに」
「良いよ、あのサイズじゃそもそも前見えてなかったでしょ」
「はい、全然」

 レオから見ればぬいぐるみから生えた足がよたよたと歩いているような状態だったことだろう。当時の状況を思い出しては可笑しくなってしまい、マーシャは肩を揺らす。
 彼女の笑顔をレオが眩しそうに眺めていることには気付かぬまま、マーシャはおずおずと告げた。

「ありがとうございました。まさか昔お世話になった方だったなんて」
「あー……うん。だから君の事情はその、それなりに把握した上で接してたんだ。あんまり深く追及すると困るだろうから、初対面の振りしてただけで」
「気を遣わせてしまいましたね。……でも、見守ってくださって嬉しいです。こうしてお話も聞いてくれて……さっきよりも心が軽くなりました。私、ベリンダさんたちと話し合ってもう少し頑張ってみま──」
「待った」

 レオの制止にピタッと言葉を引っ込めれば、彼は少々言いづらそうに片方の眉を上げた。

「……同僚からの嫌がらせは有耶無耶にしない方が良い。今までは何とかなっていたとしても、受付業務に不手際が生じてもおかしくない状態だったのは事実だ。ギルド長に報告すべきだよ」
「処分を求める……ということでしょうか? でも、ただでさえギルドは人手不足ですし……」
「これは仲間内での喧嘩じゃ収まらないんだ。君たちが送り出す冒険者たちの命にも関わる。何より──マーシャさんを不当な理由で責めた謝罪をさせなくちゃね」

 マーシャはぱちぱちと目を瞬かせ、彼の柔和な笑顔を見詰める。
 初めて名前を呼ばれたせいか、不思議と音を立てた胸を押さえつつ、弱弱しい声で尋ねた。

「……どうしてそこまでしてくださるのですか?」
「え? そりゃあ……」

 不意を衝かれたようにレオが語尾を小さくしたときだった。
 突然視界の両端から大柄な影が現れ、ガシッとレオの肩を捕まえる。満面の笑みを浮かべた厳つい男二人組は、マーシャも何度か対応したことのある冒険者だった。

「そりゃあマーシャちゃんの力になりたいからだろうよ!!」
「痛っ」
「え?」
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