孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
「さっきから聞いてりゃお行儀の良い会話ばっかりしやがって。おいマーシャちゃん、コイツは奥手すぎるだけで俺たちと同類だぞ」
「そうだそうだ、どうせ俺らが尽くフラれまくってるから自分も玉砕すると思って尻込みしてやがんだ」

 ぐいぐいと頭をテーブルに押さえつけられているレオが、非常に焦った声で「待て」「やめろ」と二人に抗議をする。まさかと思いつつも、その耳が仄かに赤く染まっているのを見たマーシャは、ぶわっと頬に熱が上るのを感じて俯いた。
 同時にレオも彼女の初々しい反応を見てしまったせいか、お互いが目を合わせられない状況に陥り、冒険者の二人が何とも白けた顔で二人を見遣る。

「ったくよぉ……マーシャちゃんもマーシャちゃんだぜ。こいつの対応してるときだけ明らかにホッとした顔して」
「え!? あ、それはその」
「僕ならお前らと違って、無闇に口説かれる心配がなかったからだよ」

 口ごもるマーシャの代わりに、レオが半ばヤケクソな回答を挟む。いつもより少し乱暴な口調は、しかし冒険者仲間にとっては当たり前のようで、彼らは豪快に笑っていた。

「だはは! だから余計に距離詰められなくて足踏みしてたのか! <白銀>のレオ様とあろう男が!」
「ああそうだ図星だ、気が済んだか? ほら散った散った」

 しっしと手を払ったレオは、頬の赤みを引きずったまま席を立つと、逡巡の末にマーシャの手をそっと掴んだ。

「そろそろ休憩時間終わりでしょ。送るよ」
「は、はい、え?」

 流れのままに頷いてしまったマーシャは、食堂にいた冒険者たちから盛大な冷やかしを受けながら外へと出た。
 一体いつの間にこれほど注目されていたのかと動揺する傍ら、前を歩くレオが不意に肩を落とす。

「あぁクソ……早めに場所を変えるべきだった」
「レ、レオさん、すみません。私が長々とお話してしまったから」
「いや、君のせいじゃないよ。僕が下心を持ってたのは事実だし」
「したごころ」

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