孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
 いつも優しく紳士的なレオからそんな言葉が飛び出すとは思わず、マーシャは間の抜けた声で反芻してしまう。
 しかし冒険者たちの発言から察するに、レオがずっとそういった好意をひた隠しにしていたのは事実なのだろう。現に、気にしていないような声で語ったわりには彼の横顔はまだ僅かに赤い。

(レオさんって、恥ずかしいときはこんな顔をするんだ)

 彼はギルドを訪れるときはいつだって笑顔を浮かべていて、ちっとも疲れを見せない人だった。マーシャが受付に少し手間取ったところで苛立つこともなければ、依頼主から理不尽な文句をつけられて落ち込むこともない。
 それゆえマーシャは彼にどこか人間離れしたような印象を抱いていたのだが、どうもそれは見当違いだったらしい。
 自意識過剰は承知だが、もしもマーシャに余計な気を遣わせないよう常に平静を装っていたのだとしたら──自分こそ平静ではいられないだろうとマーシャは頬を押さえる。

「マーシャさん」
「はいっ?」

 上ずった声で返事をすれば、レオが少しの間を置いてこちらを振り返った。

「さっきのじゃ、あんまりにも格好が付かないから……今日の夜、時間くれないかな?」
「へ……」
「ああでも、先に君の憂いを失くしておかないとね」

 行こうか、とレオはマーシャの手を引いたまま、ギルドの入り口を開けた。



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