孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
 ──そうして二、三時間ほど、呑気に寝られるはずもなかったマーシャが仮眠室でそわそわと待機していたときだった。

「信じてくださいギルド長!! マーシャさんの言ったことはデタラメです!!」

 大きな声が聞こえてきて、マーシャは肩を揺らした。
 恐る恐る外に出て広間を覗いてみると、ギルド長とレオ、それからベリンダの姿が見えた。傍らには、彼女と一緒になってマーシャに仕事を押し付けてきた受付嬢もいる。彼女らが真っ青になって俯くのとは対照的に、ベリンダだけは毅然とギルド長を睨み付けていた。

「依頼文の作成を押し付けられたのは私ですよ! 作成者のサインだって全部私たちのものだったじゃないですか!」
「いや、だからなベリンダ……」

 ギルド長がつい気圧されたのも束の間、二人の間にバサリと書類の束が割り込む。
 溜息まじりにベリンダを睥睨したのは、言わずもがなレオだった。

「それ自体が怪しいと言っているんだ。どの依頼文も君たちの筆跡とは似ても似つかないし、特別依頼に関しては予備調査に同行してない者がどうやって書いたんだか」

 彼が持っていたのは、先月に掲示板に貼り出された依頼文だった。湿地帯に出没した非常に危険な大型魔獣の討伐依頼で、予備調査と依頼文の作成はマーシャが担当した。
 該当地域は雨量が多いことは勿論、その魔獣が地中深くの泥を掘り出して食べていたせいで、辺り一帯の地盤がめちゃくちゃになっていることが予備調査で明らかになった。
 マーシャは一緒に同行した先輩職員に助言を貰いつつ、冒険者に案内する進行ルートの調整や目印の配置なども行い、かなり入念な準備を経て依頼文を作成したのだが──。

(ベリンダが作ったことになっていたの?)

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