孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
 掲示板に貼り出すタイミングで、サインを書き換えられたのだろうか。寝不足でその辺りの確認を行っていたが、ベリンダの引きつった顔を見るにどうやら事実のようだった。
 サボりを誤魔化すにしては些か無理があるが、何故こんなことをしたのだろう。

「予備調査のレポートにはマーシャさんの調査報告とサインがしっかり残ってたよ。こっちまで書き換える暇はなかったかな? 友達とのお喋りに夢中で」
「……っ!」

 レオが分厚いレポートを捲りながら笑えば、ベリンダの顔が真っ赤に染まる。
 だがそれは怒りに震えてのことではない。彼女は途方もない羞恥で固まってしまったようだった。

「受注するときにおかしいなと思ってたんだ。これだけ丁寧な依頼文だからきっとマーシャさんが作ったんだろうなぁと思ってたら、君の名前が書かれてたから」
「……ど、どうしておかしいんですかっ? 私が書いた予備調査のレポートを、マーシャさんが自分の手柄にした可能性だってあるじゃないですか!」
「じゃあ、この特別依頼の依頼主が誰か教えてくれる? こんなに時間をかけてくれたんだ、覚えてるよね。管理番号は三〇二だよ」

 ベリンダが再び閉口した。「あの」「依頼主は」と途切れ途切れに言葉を発するばかりで、答えは一向に出てこない。
 彼女のしどろもどろな態度を暫し観察していたレオは、やがて肩を竦め──二階からこっそり様子をうかがっていたマーシャに視線を移した。

「マーシャさん、代わりに教えてくれるかな?」
「え!?」

 マーシャが素っ頓狂な声を上げれば、こちらに気付いたベリンダに恐ろしい形相で睨まれてしまった。
 内心で悲鳴を漏らしつつ、そちらは見ないようにしながらマーシャは口を開く。

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