孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
「ええと、三〇二は……湿地帯の一部を所有しておられるモンスーニ伯爵のご依頼です」
「うん、合ってるね。ちなみにどうして報酬を変更してもらうよう交渉したの?」
「……伯爵が当初、家宝の鎧を報酬にすると仰ったので、ちょっと考え直してくださいと説得を……」
「あはは、危うく僕はとんでもないものを貰うところだったのか。助かったよ」

 おかしげに笑ったレオに釣られて、マーシャもえへへと控えめに笑う。すると、頬に突き刺さる視線がより一層刺々しいものとなる。
 何でこんなにもベリンダから殺気丸出しで睨まれているのかと冷や汗をかいた、そのとき。

「──どうして信じてくれないんですか!? 私、ずっとマーシャさんに嫌がらせされてたって言ってるじゃないですか! 何でレオさんはマーシャさんの味方ばっかりするの!?」

 ベリンダが金切り声で捲し立て、顔を覆って泣き出した。
 その号泣っぷりを見て反射的に一階に下りようとしてしまったマーシャを、片手を挙げたレオが制止する。にこりと微笑んだ彼は、「そこにいて」と声は出さずに伝えた。
 そんなやり取りをする間にも、ベリンダの悲痛さを帯びた訴えは続く。

「マーシャさんが受付になってから、あなたが私のとこに全然手続きに来なくなったのだって、どうせあの女が色目使ったからでしょ!? 上っ面だけ見て鼻の下伸ばすようなバカとは違うと思ってたのに! 酷い!」

 酷いのはどちらだ。
 あんまりな言われようにマーシャは凹んでしまったが、今の発言にはベリンダの動機がよく表れていた。
 つまるところ、ベリンダはレオに想いを寄せていたのだろう。それもかなり前から。
 腕っぷしが強くて、ギルド職員や冒険者からも慕われていて、育ちの良さをも伺わせる物腰柔らかな好青年と来れば、惹かれるのも無理はない。恋愛沙汰に少々疎いマーシャにだって、彼がとても魅力的な男性であることは分かるのだから。
 他の冒険者たちと比べてレオがギルドに来る頻度は低いため、きっとベリンダは来訪の日を待ち侘びていたことだろう。ところが、ここ数ヶ月でレオがマーシャのカウンターにばかり直行するものだから、嫉妬や怒りが積み重なり嫌がらせに至ってしまった──といったところか。
 気持ちは分からないでもないが、嫌がらせをするよりも他に何かなかったのだろうかと思わざるを得ない。

< 21 / 33 >

この作品をシェア

pagetop