孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
「……うーん」

 すると、ベリンダの主張を静かに聞いていたレオが、おもむろに首を傾げた。

「僕が毎回マーシャさんに依頼の手続きをお願いしてるのは、まぁ……彼女に好意があるからというのもあるよ」
「ほらやっぱり──」
「でもね。それ以上に、君たちのいい加減な説明じゃ安心して依頼を受けられないから、っていう方が大きいかな」

 レオの冷ややかな言葉に、ベリンダの勢いが急激に削がれたのが分かった。
 何を言われたのか咄嗟には理解できなかったのか、彼女はひどく掠れた声で「え?」と聞き返す。

「い、いい加減って……」
「例え<白銀>の称号を持ってたとしても、特別依頼は僕一人じゃ解決できないものが殆どだ。ギルドの協力がなければ、どんなに豪華な報酬を用意されても引き受けないだろうね。何せ命に関わることだから」

 レオは手持ち無沙汰に捲っていたレポートや依頼文の角を揃えつつ、にこやかにベリンダへと尋ねた。

「半年ほど前だったかな。君の案内で依頼を受注した冒険者が大怪我を負って運ばれてきたんだけど、知らない?」
「……え」
「標的の魔獣に番がいたこと、その卵が孵化しかけていること。重要な伝達事項を二つとも知らされなかったおかげで、彼らは孵化した幼獣に襲われてしまってね。巣の近くで挟撃を受けた」

 どんどん青ざめていくベリンダとは裏腹に、レオの笑顔は柔和なままだ。しかしだからこそ、そこに宿る冷たい怒りが如実に読み取れる。

「彼らが打ち上げた救難信号を僕たちが見付けられなかったら、あのまま全員死んでいただろう。──分かるかい? 君のいい加減な仕事で多くの命が失われるところだったんだ」

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