孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
 特別依頼で怪我人や死者が出ることは少なくない。冒険者も危険を承知の上で依頼を受注しているため、そのことでギルドが責任を問われることはまず無い。
 が、これはベリンダがしっかりと卵の件を伝えていれば、未然に防ぐことが可能な事態だった。

「そんなこと、私、何も」
「うん。受付に質問しなかった自分も悪いと言ってね、君に責任を追及することは控えたんだ。まあ、彼らはもうこのギルドは利用しなくなったけど」

 彼らの対応がベリンダに対する許しなどではないことは、誰が見ても明らかだ。今後二度とベリンダから依頼の案内を受けることがないよう、リスクを避けた。ただそれだけのこと。

「あの事件以降、君からは特別依頼を受けちゃいけないって冒険者の間で共有されてる。……逆にマーシャさんが受付として好まれるのは、そういう心配が不要なぐらい、多くの情報を集めて渡してくれるからだ。僕たちが無事に帰って来れるよう、真剣に願ってくれるからだよ」

 レオはそう締め括ると、手にしていた書類をギルド長に返し、「後は任せるよ」と口角を上げる。
 そうして彼がマーシャの元へ向かおうとすれば、ベリンダが最後のあがきとばかりに彼の袖を掴んだ。

「ま……待って、本当に悪気があったわけじゃないの、マーシャさんにも謝るから、あの」

 しかし、レオはやんわりと腕を払うと、困ったように微笑んで告げる。

「じゃあ当事者に謝らないと。マーシャさんのためにいろいろ言ったけど……君のしたことに、僕は関係ないよ」

 ──他人だし。
 最後にそういって呆気なく線引きをされたベリンダは、今度こそ涙を溢れさせてその場に崩れ落ちたのだった。



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