孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
 何度も冒険者たちから食事に誘われてきた身ゆえ、これがデート以外の何物でもないことは既に理解している。のだが、実際に誘いに応じたのは初めてのことで、マーシャは一体どう振る舞えば良いのかさっぱり分からないでいた。
 緊張したまま塩っけの強いフリッツをつまむマーシャとは対照的に、レオはゆったりと椅子に腰掛けている。何か大層ありがたいものであるかのように、彼女のちまちまとした食事を眺めていた。

「な、何でしょう……?」
「ん? マーシャさんが何か食べてる姿、初めて見たから。可愛いなって」
「げほっ、ごほ」
「大丈夫?」

 差し出されたエールで咳を鎮めつつ、マーシャは一度大きく頭を振ってからレオと目を合わせる。

「ええと、今日はその、本当にありがとうございました。つきましては何かお礼をしたいのですが」
「え、食事に応じてくれたことがお礼だと思ってたな。もう一個お願いしても良いってこと?」
「へ!? いえ、はい、そう、ですね。食事は私もお腹が空いてたから付いて来させてもらっただけですし」
「はは、あんまり僕のこと甘やかさない方がいいよ。調子乗るから」

 そう言いつつ、レオは「どうしようかな」と上機嫌に視線を逸らした。
 いつもギルドで話すときとは少しばかり違う砕けた態度に、マーシャは胸の辺りがふわふわと浮くような感覚だった。
 昼間、レオの素性を知ったせい? ギルドで終始こちらの味方に付いてくれたせいだろうか? 恐らくはどちらもなのだろうが、マーシャのレオに対する見方が今日一日で大きく変わったのは間違いない。
 ただでさえ整った凛々しい顔が、一段と素敵に見えるのも──そこでパチリと目が合ったマーシャは、「ひぃ」と小さく悲鳴を漏らしてしまった。

「じゃあマーシャさん、僕とお試しで付き合ってくれる?」
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