孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
「…………」
「……あ。これは今度こそ引かれてるかもしれない」
「…………!? いえ、すみません、聞き違いだったら申し訳ありません。つ、付き合うって……私とですか?」
「うん。もうずっと前から言いたかった」

 マーシャは口をはくはくと動かした後、無意識のうちに止めていた呼吸をかろうじて思い出した。
 一人で百面相を繰り広げる彼女を見てレオはおかしげに笑っていたが、彼自身もどこか緊張した様子で頬を掻く。

「えっと……昼間の話の続きになるんだけど。君の誕生日に子爵を送り届けてから、王宮でよく声を掛けてくださるようになってね。お会いするたびに君の話を聞かせてもらってたんだ」
「お義父様が……?」
「『最初は亡くなった娘の代わりのように思っていたが、今やもうマーシャは二番目の愛娘なんだ』って。──君のおかげで、子爵夫妻の心の傷はすっかり癒されたんだろうね」

 義父母の優しい声と笑顔がふわりと脳裏に浮かび、マーシャは言葉を詰まらせた。
 存命のうちに恩を返せなかったとずっと悔いていたのだが、レオの語った話から察するに、少しは彼らの愛情に報いることが出来たのかもしれない。
 安堵と懐旧に浸るマーシャの向かい、レオも似たような感情を滲ませて微笑んだが、やがて彼はそれを苦笑へと転じさせた。

「……子爵があまりにも幸せそうだったから、言えなかったよ」
「え?」
「もしマーシャ嬢にまだ婚約者がいなかったら、僕に機会をくれませんか──なんて」

 マーシャは再び口を開けて固まってしまった。
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