孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
 曰く、レオはマーシャが知らなかっただけで何度も義父と顔を合わせていたらしく、彼の方も息子よろしく可愛がってもらっていたそうだ。そこで義父が口癖のようにマーシャの話を持ち出すものだから、どんどん興味を引かれてしまったと彼は笑う。

「引き取られた負い目か、遠慮がちで控えめだけど、とても頑張り屋な子だって。文字も作法もあっという間に覚えたから、あの子は天才に違いないとも言ってたかな」
「お、お義父様、よそでそんなことを……」

 よもやこんなところで義父による褒め殺しを聞くことになるとは思わず、マーシャは茹で上がった顔を両手で覆った。
 しかしレオは茶化すつもりなど微塵もなかったようで、彼女の手をそっと下ろさせて告げる。

「少なくともここ数か月、僕が見てきたマーシャさんは子爵の仰った通りだったよ。誰よりも頑張り屋で、誰よりも真摯に命と向き合っていた。……初めてギルドで君を見かけたとき、無理に保護しなくて良かったよ。君は一人でも生きようとしてたから」
「あ……もしかして、その頃にはもう子爵家の事情をお調べになっていたのでしょうか?」
「当然。真っ先に」

 侯爵家を出て以降、義父との交流も途絶えてしまっていたため、レオが義父母に起きた悲劇を知ったのはマーシャを見かけた後だったという。子爵家の掌中の珠が何故ギルドにいるのかと己の目を疑った後、すぐさま彼は王都で暮らす兄に文を飛ばしたのだそうだ。
 そうして子爵夫妻が不運にも魔獣に襲われて死亡したこと、マーシャが親戚一家から追い出されてギルドに身を寄せたことなどを知ったのだった。

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