孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
「信じられなかったよ。あんなに愉快でお優しい方に、もう二度とお会いできないのかって。……君の辛さとは比べようもないと思うけどね」
「いえ……嬉しいです、レオさんがそう言ってくださって。葬儀では、お義父様たちを心から悼んでくださる方は少なかったから……」

 親戚一家が見せた横柄な態度を思い出し、マーシャは小さくため息をつく。彼らは手向けの花すら持参していなかった。疲弊しきったマーシャに追い打ちをかけるが如く、義父母が築いた温かな屋敷に土足で踏み込んだ。他人にあれだけの怒りを覚えたのは、後にも先にもないだろう。
 あの場で何もできなかったマーシャを神が哀れに思ったのか、はたまた親戚一家の悪徳が咎められたのか、彼らは不幸が積み重なってバラバラになってしまったけれど──それでもマーシャは恐らく、これからも彼らを許すことはない。出来ることならこれからの人生で、彼らと再会するようなことが無いよう祈るばかりだ。

「……。マーシャさんは、子爵邸を取り戻したくはない?」
「え……」
「今、屋敷が競売に掛けられてるらしくてね。買い手が付く前に僕が押さえておくことも出来るけど」

 レオの申し出に、暫し考え込んだマーシャはゆっくりとかぶりを振る。

「……いえ。きっと、私たちが使っていた物は全て処分されてしまっていますから。それに……お義父様とお義母様がいない屋敷に戻っても、寂しくなるだけです」
「そっか。先走らないで良かったよ」
「あ、あの、本当に買い取るつもりだったんですか? そこまでしていただかなくても」
「はは、マーシャさんが喜んでくれるなら何でもするような男だから、不要なときは今みたいにはっきり言ってね」
「ええ……!?」

 またそんなことを、と困惑したマーシャだったが、レオはどうやら本気で言っているらしい。微笑の奥に潜む真剣な眼差しは、まるでマーシャを狙う肉食獣のようだった。
 その眼光を悟られたと知ってか、彼は苦笑混じりに瞼を閉じる。

< 28 / 33 >

この作品をシェア

pagetop