孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる


「──……昇級試験に合格されたのですね、おめでとうございます。次回から特別依頼の手続きも行えるようになりますので、よろしければ挑戦してみてください」
「は、はい! ありがとうございます! そのときはマーシャさんのところで手続きします!!」
「あ、ええと、手続きはどこでも大丈夫ですので」
「いえ、絶対に! マーシャさんのところでお願いします! 行ってきます!」
「はい、お気を付けて……」

 活気を溢れさせすぎた若者が勇んで出発する背中を、マーシャは苦笑まじりに見送った。
 冒険者として活動を始めて二か月ほどの彼は、十代半ばでありながらその実力には光るものがある、とギルドから一目置かれる存在だ。いつも生傷が絶えないため、その都度マーシャがおすすめの傷薬を紹介したり応急処置を施したりしていたのだが、どうやら思いのほか懐かれてしまったらしい。

「未来の<白銀>くんは熱心ですねぇ」
「そうですね。この調子なら次の昇級試験も一発で合格できるんじゃないでしょうか」
「違う違う、マーシャさんの元に熱心に通ってるって話ですよ」
「え?」

 ひょいと隣の席から顔を覗かせたのは、本部から派遣されてきた受付嬢のエレナだった。彼女は二ヒヒと口を横に広げて笑うと、待機列に誰もいないのを良いことに、マーシャの横へと椅子をずらす。

「あたしも冒険者だったらマーシャさんのとこに並んじゃうと思うなぁ。いっつも優しいし怒らないし」
「エレナさんも怒らないじゃないですか」
「いやいや、注意事項を無視した愚か者にはブチ切れますよ。そうしないと言うこと聞かないんだもん」
「そ、そうですか」

 いつか隣から怒声が聞こえてきたら形だけでも仲裁した方が良いのだろうかと、マーシャは遠い目をしながら書類を片付けていく。
 エレナはそんな彼女の横顔を眺めながら、不意に顔を近づけて囁いた。

「で、今日はレオくんのところにお泊りですか?」

 ばさ、と書類を取り落としたマーシャは、耳を真っ赤にしてエレナを振り返る。

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