孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
「エレナさんっ」
「おっ、その反応は本当にお泊りですか? いや~レオくん一か月もよく辛抱しましたねぇ、あたしだったら付き合った日の夜にいただきますよ。こんな初々しい反応されたら即行で襲っちゃうね」
「エレナさんちょっと、皆さん聞こえちゃいますからっ」

 マーシャの動揺っぷりを見てケラケラと笑ったエレナが、「未来の<白銀>くんが泣いちゃうなぁ」と大げさに肩をすくめたときだった。
 ギルドの入り口が開かれ、見慣れた青年が姿を現す。真っ先にマーシャを見つけて破顔したのは、言わずもがなレオだった。

「あっ。おかえりなさい、レオさん」
「ただいま、マーシャ」

 二人のやり取りを見たエレナが「ここは新居か……?」と呟きながら、自分の定位置へと戻っていく。彼女と入れ替わるようにしてカウンターに座ったレオは、依頼されていた納品物をマーシャの前に置いた。
 袋の中には希少な薬草が入っていた。これは<白銀>の冒険者でなければ立ち入りを許されない「危険区域」でのみ自生する植物で、感染症などに効くとされる治療薬の原料だ。見た目や量が依頼主から指定された通りであることを確かめたマーシャは、「確かに受け取りました」と口角を上げる。

「お怪我はありませんでしたか?」
「うん、今回は採取だけだったからね。けどマーシャが言ってた水域をちょっと覗いてきたら、やっぱり魔獣の痕跡が残ってたよ。報告よりも数が多いと思うから、用心しておくよう伝えてくれるかな?」
「ありがとうございます、共有しておきますね」

 マーシャから受領証を受け取ったレオは、そこで冒険者の顔を少しばかり崩して微笑んだ。

「今日もお昼はちゃんと食べた?」
「えっ。は、はい。……ギルド長も体制を整えてくださったので、もう大丈夫ですよ」
「そ? あの人、気を抜くとすぐ怠けるから心配なんだよ。でもまぁ……うん、顔色は良くなったね」

 すり、と手の甲で頬を撫でられたマーシャは、きゅっと顔のパーツを中央に寄せる。そうすることで羞恥に耐えようとしたのだが、あえなく彼女の顔は真っ赤に染まってしまった。

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