孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
 ──レオとの交際は、「お試し」とは名ばかりで、とても甘い日々の連続だ。

 まず、彼の態度が今までとは比にならないほど甘くなった。
 目が合えば嬉しさを惜しげもなく露わにして微笑み、マーシャが少しでも体調が悪いと分かれば心配そうに声をかけ、長期の依頼がない日には必ずマーシャの帰りを待って迎えに来る。まるで片時も離れたくないと言わんばかりのレオの行動に、ギルド職員までもが「あらまぁ」と生暖かい笑顔を浮かべる始末だった。
 そして週末にはデートに誘われるのだが、これがまた想像以上に楽しくて、マーシャは困惑してしまう。
 孤児院にいた頃も子爵家で暮らしていた頃も、あまり街に繰り出した経験がなかったマーシャは、外を歩くだけでもそれなりに楽しめる。だが、レオと隣に並んで手を繋ぐと、驚くほど気分が華やいだ。
 初めてのお出かけでは幼子のようにあっちへ行きたいこっちへ行きたいとはしゃいでしまい、その日の夜は恥ずかしさで死にそうになったのだが、それも良い思い出である。

(私、こんなに笑えたんだな)

 実の親に捨てられたばかりか、引き取ってくれた義父母をも失い、今度こそ天涯孤独の身になったと思っていた。それゆえ自然と笑顔を浮かべることが減っていたのだが、今ではもう笑うことへの抵抗感も消え失せた。
 レオが隣にいてくれたからこそ、生じた変化だった。



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