孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
「……マーシャ? どうかした?」

 夜、いつものようにギルドまで迎えに来たレオを見上げ、マーシャは「あの」と小さく切り出す。

「お試し期間のこと、なんですが」

 レオの動きがぴしりと止まった。
 別れを切り出されるのではないかと警戒している様が見て取れたので、マーシャは慌ててかぶりを振る。

「いえ、レオさんが良かったら、正式にお付き合い、させていただきたくって」
「……」

 レオが固まったまま口元を覆うが、マーシャはそれに気付かないまま早口に続けた。

「わ、私、レオさんともっと一緒にいたいです。これから先も、ずっと」

 直後、がばりと背中を抱き寄せられる。
 突然の抱擁に目を白黒とさせたのも束の間、レオはいつになく性急な動きでマーシャの頬を掬い上げた。

「ごめん、ちょっと、嬉しすぎてどうにかなりそう。ちょっとは僕のこと好きになってくれたってこと?」
「ちょっと……? いえ、ほぼ毎日レオさんのことばっかり考えてしまうので、ちょっとでは……」
「あ、待った、あんまり真面目に答えないで我慢できなくなる」

 何やら後悔したようにボソボソと呟きながら、更に強く抱き締められてしまったマーシャは、彼の腕の中でぽつりとこぼす。

「す、好きです。とっても……」
「…………」

 マーシャの声を聞き逃さなかったレオが、大きく息を吸い込み、吐き出すと同時に背をかがめる。
 額を突き合わせるようにして顔を覗き込まれ、マーシャはその熱っぽい瞳をじっと見返した。

「……それ、キスしてほしくて言ってる?」

 そうしていつもより数段低い声で問われたなら、マーシャの答えは一つしかない。
 小さく頷けば、心底参ったように笑ったレオが、ゆっくりと唇を重ねる。触れるだけの優しい口付けに、心臓が大きく飛び跳ねたが──やがてそれは呼吸ごと奪うような強引なものへと変わってゆき、いよいよマーシャは腰が抜けた。
 レオの腕に身を委ねながら、彼女は時間差で襲ってきた羞恥に縮こまる。

「す、すみません、私……」
「いや、こっちこそごめんね。一瞬このまま家に連れて帰ろうかなとか考えちゃった」
「それは、ま、またの機会に……!」
「わあ、マーシャは期待させるのが上手だね」

 話しながら額や鼻先にもキスを落としたレオは、そこでふと思い出したように顔を離した。

「じゃあそのときに渡そうかな」
「? 何をですか……?」
「秘密」

 そう言って、最後にまた唇を塞がれて。


 後日、彼の家に招かれたマーシャは、見覚えのある大きなぬいぐるみを渡された。曰く、無人となった子爵邸が競売に掛けられる際、処分されそうになっていたところをレオが引き取ったという。
 ぬいぐるみを受け取った途端、義父母との思い出が一斉に蘇り、マーシャはレオの傍で夜通し泣いてしまったが──彼女のその後の人生が、笑顔に溢れたものとなったのは言うまでもない。

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