孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
 さて、マーシャは幸いにして子爵家に舞い戻らずに済んだ。
 魔獣の活発化に伴い、その調査や討伐を担う冒険者の需要が上がったことで、彼らに依頼を割り振るギルド職員の募集があちこちでなされていたのだ。
 募集資格としては、文字が読めることと計算ができること、書類作成が苦でないこと、厳つい冒険者相手でもちょっとやそっとじゃ怯まないこと、あと度胸……などといろいろ書かれていた。
 後半はともかく前半ならまぁ、能力的には行けるかもしれない、多分、と不安たっぷりにギルドを訪れてみたら、案外すんなりと採用されたのである。

『字も綺麗だし計算も早いし言葉に訛りもない。採用で』
『えっ』

 とにかく人手が足りない状況だったと知るのはもう少し後のことだったが、マーシャはひとまず安心した。
 諸事情で住むところがないと伝えれば寮を勧められ、その日のうちに制服の採寸も終わらせたマーシャは、初めての経験に対する達成感と寂しさで胸がいっぱいになり、夜は小さなベッドで丸まって眠った。
 だがそんな感傷に浸る暇もなく、さっそく翌朝からマーシャは冒険者ギルドでの忙しない日々に放り込まれることとなったのだ。

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