孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
『前から思ってたんですけどぉ。マーシャさんって、良家のお嬢様だったりしますか?』

 そんなある日のことだった。
 ギルド長から受付業務をやってみないかと言われ、マーシャが緊張しながら冒険者の対応をしていると、隣に座っていた受付嬢のベリンダから声を掛けられた。

『ほら、マーシャさんってお肌も綺麗だし、髪色もプラチナブロンドっていうんですか? グレーの目もお姫様みたいで可愛いしぃ』
『え、……えっと、ありがとう。でも私、お嬢様なんかじゃないわ。幼い頃は孤児院にいたし……』
『えー隠さないでくださいよぉ』

 マーシャは元令嬢である以前に、元孤児である。亡き子爵令嬢と顔がよく似ていたというだけで、生まれが賎しいことには変わりない。
 義父母の厚意でそれなりの教養を蓄えることはできたが、社交界では「どんな手を使って貴族の世界に入り込んだのか」としばしば侮蔑的な目を向けられたものだ。
 煌びやかで息苦しい社交界に執着するどころか、逆に離れられて清々とした心地のマーシャは、訝しむベリンダの視線を軽く受け流して業務に戻ったが。

『──おいマーシャ、一回でいいから俺と飯に行ってくれよ』
『マーシャさん、このあとお時間ありませんか!?』
『あ、俺マーシャちゃんに受付してもらいたーい』

 受付業務を任されて一ヶ月も経つと、マーシャは冒険者から度々言い寄られるようになった。
 屋敷を追い出されてからというものの、未だ自分のことだけで精一杯だったマーシャは彼らの誘いを丁重に断った。交際云々よりも以前に、まず男女のあれこれにピンと来ていなかったのもある。マーシャが困惑しつつも正直にその旨を話して頭を下げれば、大抵の男は引き下がってくれた。
 しかし、彼らのアプローチにおろおろとしている間に、今度は同僚の受付嬢たちからの視線が鋭くなっていく。

『ねー、マーシャさーん。こっちの依頼文もやってくれなーい?』

 ドサッ、と目の前に置かれた紙の束を見て、マーシャは言葉を失った。
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