孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
 依頼文の作成は量が膨大なので、皆で手分けしてするものだ。中でも注意事項の多い特別依頼は二人以上で担当し、報酬が妥当かどうか、予備調査は十分かどうかなどを精査しなければならない。
 今しがた押し付けられた依頼文の山には、そんな特別依頼と思しきものが二、三は含まれていた。

『あの、特別依頼は一人では』
『マーシャさんはあたしらと違って暇じゃん? 仕事中に男漁りするぐらいだし』
『……え』

 男漁り。
 身に覚えのない言いがかりに唖然としたのも束の間、隣に座っていたベリンダがくすくすと肩を揺らして笑う。

『もー、可哀想~。こんな量押し付けたら誰だって捌けないよぉ。ベリンダが手伝ってあげますね?』
『あ……う、うん。お願いしま』
『でもぉ』

 ベリンダは依頼文の山を崩しながら、戸惑うマーシャに顔を寄せて囁いた。

『ほんとに、男漁りとかやめた方がいいですよぉ。仕事そっちのけでお喋りしてるの、印象悪いし?』
『! そんなこと』

 してない、と言おうとしたのだが、マーシャは閉口した。
 ギルドを訪れる冒険者たちから頻繁に食事に誘われていたことは事実だし、彼らを上手くあしらう方法が分からずに話が長引いてしまうことは多々あった。そういった公私を弁えないやり取りは、確かに他の受付嬢からしたら鬱陶しかったかもしれない、と。

『……ご、ごめんなさい。気を付けるわ』
『ふふ、いいですよぉ。ほら皆、早く終わらせちゃお?』

 ベリンダはにこやかに笑ったが、その日以降マーシャは針の筵であった。
 担当外の依頼文を任されることに始まり、予備調査の欠員補充には必ずマーシャが指名されたり、支給品の不備があれば全てマーシャに責任を擦り付けられたりと、とにかく理不尽な嫌がらせが続いたのだ。
 ベリンダが止めに入ったのは最初の一度だけで、それ以降は全くの知らんぷり。それどころか、疲弊していくマーシャを見ては同僚と楽しそうに笑うだけだった。



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