孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる


(何でこんなことに……)

 きっかけは自分にあったとは言え、さすがに体が持たなくなってきたマーシャは、貴重な休憩時間を潰されないように急いで近場の大衆食堂へと飛び込んだ。
 そこでがっくりと肩を落として昼食を取りながら、マーシャは賑やかな街並みを何となしに眺める。

(貴族にも平民にも嫌われるって……私、そういう星の下にでも生まれたのかしら)

 ああ、それと実の親にも捨てられたかと自嘲気味に笑い、味のしない料理を再び口に運んだときだった。

「あれ、受付さんだ」

 突然降ってきた声に、マーシャの肩がビクッと跳ねた。
 慌てて振り返れば、珍しそうに目を丸くした青年がそこに立っている。目立つ紅蓮の髪と、対照的な薄氷色の双眸。一見して快活な印象を抱かせるが、その涼しげな眼差しや落ち着いた声はひどく大人びていて、そのアンバランスさに妙に意識を引き付けられる人。
 冒険者ギルドにおける最上位ランク<白銀>の称号を有する冒険者──レオだった。
 特別依頼を中心的に受注する彼は、下位の冒険者と違ってギルドに顔を出す機会が少ない。貴族の護衛で他国へと渡ったり、二週間にも及ぶ魔獣討伐作戦に参加したりと、長期の依頼を請け負うことが殆どだ。
 今回も長いこと売れ残っていた面倒な依頼を受注してくれてとても助かった──とまで考えたマーシャは、はっと我に返って会釈をする。

「お帰りなさい、レオさん。依頼を終えられたんですね」
「ああ、うん。ありがとう。受付さんがくれた資料のおかげでスムーズだったよ」

 にこ、とレオも笑みを返してくれたなら、いつもの穏やかなやり取りにマーシャも頬を緩めた。
< 8 / 33 >

この作品をシェア

pagetop