孤独な受付嬢は凄腕冒険者の愛に包まれる
 ──受付業務をやっていて、何の憂いもなく接することが出来るのは彼ぐらいだ。
 レオは仕事中のマーシャをしつこく食事に誘ったりしないし、逆に横柄な態度を取ったりもしない。依頼達成の報告時に欠かさずお礼を言ってくれる彼は、まぎれもなく善良な冒険者だろう。
 彼の礼節を弁えた振る舞いは非常に好印象で、ここ最近疲れきっているマーシャにとっては貴重な癒しをもたらしてくれる存在だった。

「おでこ、冷やした?」
「は、はい。ありがとうございました、あんな貴重なマナ石をくださって」
「いいよ、依頼ついでに貰った物だし。……ところで」

 マーシャの額に痕が残っていないことを確認したレオは、満足げに微笑んでから小首をかしげる。

「おでこは良いとして、前より更に疲れてない? 顔色悪いよ」
「え」

 ぎくりと頬を引き攣らせると、その素直な反応を見たレオが苦笑をこぼす。
 彼はマーシャの向かいに腰掛けると、控えめな笑みを湛えた。

「何かあった?」
「……いえ、その……レオさんにお話するようなことでは」
「受付さんにはいつも助けてもらってるんだから、話ぐらい聞かせて」

 ほら、とレオに再度促されたマーシャは、しばらく悩んだ末にぽつぽつと最近の出来事を話し始めた。
 複数の冒険者に言い寄られたこと、それを見咎められて同僚からちょっとした嫌がらせを受けていることなどを簡潔に伝えてみると、レオの笑顔に苦いものが滲んだ。

< 9 / 33 >

この作品をシェア

pagetop