お嬢様は不良さんと恋したい
「ほら、これ」
工事現場近くの公園に来たわたくし達は、羽村さんに椅子で待つように言われドキドキをしずめつつお待ちしていました。
すると、もどってきた羽村さんがわたくしに何かを差し出したので、思わずそれを受け取りましたわ。
冷たい、缶ジュース?
「気に入らなかったら飲まなくていいぞ」
「あっいえ……そうではなく……」
わたくしは言葉に詰まってしまい、それをくるくると手の中でもてあそんでいました。
すると、羽村さんが何かを察したのか、自分の缶コーヒーを置いて、わたくしの缶ジュースを手に取ったのです。
そして、プルタブを開けてくださいました。
「お嬢だと、缶ジュースなんて自分で開けたことないか」
「そっ、そんな……事……」
でも、そうなのです。
恥ずかしながらわたくし、粟嶋のいれるお茶か、カフェでしか飲み物を飲んだことがなかったのです。
顔が、熱くなるのを感じました。
「まぁ、そうだよな。白華のお嬢だもんな」
言いながら、羽村さんは自分の缶コーヒーを開けて、グビッと飲みました。
「あー、うめー」
それはもう、本当に美味しそうにそう言うので、わたくしも緊張で乾いた喉をうるおす事にしました。
一口飲むと、爽やかな甘みと柑橘の香りがしました。炭酸のオレンジジュースです。
「まぁ!とても美味しいですわ!」
思わずそう言うと、羽村さんはフッと口元をゆるめて、少し笑みを浮かべました。
そうです!羽村さんの笑顔をわたくしは初めて見ました!
私の心臓がドキドキと早鐘を打ちます。
「白華のお嬢の口に合ってよかったよ」
「……美羽、です」
「ああ、わかってるよ。美羽嬢」
しばらく、わたくしと羽村さんは何も言わず飲み物を飲んで過ごしましたの。
ゆったりとした時間が流れてゆきました。
「さて、俺はそろそろ仕事に戻る。美羽はあの兄さんがお待ちだろ?」
わたくしが飲み終わるのを見計らって、羽村さんはそう言いましたの。
あの兄さんとは多分粟嶋の事だと思い、わたくしはうなずきました。
わたくしの分と自分の分の空き缶をリサイクルボックスにいれ、去ろうとする羽村さんにわたくしは思い切って言ってみました。
「また……来てもいいですか?」
羽村さんは少し振り返ると、
「まぁ、たまにならな。仕事サボれるし」
そう言ってくださったんです。
わたくしはとても嬉しくなって、
「またあのおじ様に、友達ですって言ってもいいでしょうか!」
と、言ってしまったのです。言ってしまってから、調子に乗りすぎてしまったかしらと思っていると、『好きにしろ』と羽村さんは軽く手を上げてヒラヒラとさよならの合図をして行ってしまわれました。
否定、されなかったという事は、良いってことですわよね?
ということは、わたくしは羽村さんととうとう『お友達』になれたのですわ!
わたくしは喜びに顔がほころぶのを止めることが出来ませんでした。