別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「ほら、行こう」

「おかあしゃん、いこー」

 片手で凌空を抱っこした綾人が、空いている方の手で私の手を取る。凌空も怖気づくどころか中に行くのを楽しみにしているようだ。

 大丈夫、私はひとりじゃない。こんなにも頼もしい旦那さまとかわいい息子がいるんだ。

 凌空を一度預かり、綾人が玄関のドアに手をかける。綾人の家にはお手伝いさんもいるそうで、まずは出迎えてくれるであろう彼女たちに挨拶をしなくては。

 頭でシミュレーションをして意を決する。そして、ゆっくり扉が開いた瞬間――。

「綾人、聞きそびれていたけれど凌空くんってアレルギーあったのかしら? 可南子さんってコーヒーと紅茶どちらが好き?」

 快活そうな女性の声が飛んできて、私と凌空の名前が出てきたので驚きが隠せない。お手伝いさんにしてはあまりにも馴れ馴れしい言い方なので混乱する。

「……それは、自分で聞いたらいいんじゃないか?」

 うしろにいた私と凌空を見せるように綾人は体の向きをずらし、私の視界が開く。正面には綺麗に染められたウェーブがかかっている明るい茶色の髪をひとまとめにし、上品な小花柄のワンピースを身にまとったら女性が立っていて、目を丸くしている。

 それは私も凌空も同じだった。

 女性は、指先で口元に当て驚きの声をあげる。

「まぁ! 綾人の子どもの頃にそっくり!」

 さらに彼女の視線が私に向けられた。

「初めまして、可南子さん。綾人の母親、進藤美奈子(みなこ)です」

 彼女が何者なのか薄々予想はしていたが、信じられない思いもあった。だってまさか、こんな初対面になるなんて。
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