別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「可南子さん、本当に綾人が結婚相手で大丈夫? 凌空くんのためとか無理をしてない? 綾人、あなたが忘れられなくてずっと結婚したかったみたいだから、どんな手を使ったのか親としても心配で……」

 美奈子さんはわざとらしく頬に手を当て、ため息をついた。

「脅して結婚したみたいな言い方はやめてくれ」

 すかさず綾人が言い返した。もちろん冗談だとわかっているけれど、結婚を望んでいるのが彼の方だという認識に驚きが隠せない。

 なにか返そうとしたら、ソファに座っていた凌空が足を伸ばして、ゆっくりと下りた。

「りく、おそといきたい」

 遠慮気味に言うのは子どもながらにいつもと違う雰囲気を感じているのだろう。とはいえお菓子を食べ終わった凌空としては退屈になっても無理はない。

「どれ、凌空くんさえよかったらおじいちゃんが案内しようか」

 綾人のお父さんがゆっくりと立ち上がる。穏やかではあるがシャッツィの元社長であったため、やはり気品や貫禄が違う。そんなすごい人が凌空に祖父として接しているのがなんだか不思議で、恐縮してしまう。

 凌空はついていく気満々で、さすがに任せっぱなしにさせるわけにはいかないと、私も立ち上がろうとした。

「俺がついていくよ。可南子はゆっくりして」

 しかしそれを綾人が制する。さっさと席を立ち、凌空とお父さんと共に庭に向かう。

「綾人の言う通りよ。可南子さんはゆっくりしてね。それに、男性もしっかり育児しないと」

 男性陣の背中を見送りながら、綾人のお母さんがウインクする。紅茶のおかわりを勧められ、迷いつついただくことにした。
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