別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「こんなこと言うのもなんだけれどね、少し育児をさせてあげて。夫は仕事ばかりで、長男に会社を任せてからやっとひと息つけるようになったの。ずっと気を張っていて肩の荷が下りたからか、今になって後悔しているのよ。もっと子どもたちと関わっておけばよかったって」

 この場には私と綾人のお母さんしかいないが、内緒話でもするかのように彼女は静かに語り出す。

「綾人は夫みたいになってほしくないの。あの子は昔から飛行機のパイロットになるって決めて、その道をずっと突き進んでね。実際にその夢を叶えるんだから立派だと思うわ。でも他のことにあまり興味を示さないところを母親としては不安に感じていたの。わりとなんでも器用にこなしてしまえるのよね。人間関係も同じで、全部そつなくこなすけれど、表面的なものばかりで……」

 綾人はお兄さんと共に、シャッツィの社長の息子として恥じないように厳しく育てられたらしい。勉強、スポーツ、芸術、さまざまなで一定の成績を収められるよう求めたそうだ。

 しかし成長するにつれ、息子たちのなにもかも割り切った感覚や親子の間に感じる壁の存在に、お母さんは頭を悩ませたという。

「だからね、付き合っている彼女と結婚したいって綾人から聞いた時は、すごく嬉しかったの。でも可南子さんとダメになったって知って、また前みたいにただ仕事だけにひたすら突き進むんじゃないかって心配もしていたわ」

 そこで綾人のお母さんは私に微笑みかけた。
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