別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「綾人も隼人(はやと)もまったく結婚する気がないからヤキモキして、あれこれ手を回したりもしたんだけれど杞憂だったわね。素敵な奥さんとかわいい子どもに恵まれて本当によかったわ」

 綾人のお母さんの姿が母と重なった。私が想像するよりも、母にはずっと心配をかけていたのかもしれない。

「よく寝ているし、私が見ておくから今度は可南子さんを少し連れ出してあげたら?」

 お母さんが提案してくれたが、身の振り方に迷う。母親である私が凌空のそばを離れるのは、どうなんだろう。

「可南子。母さんの相手も疲れただろうし、少し気分転換しよう」

 悩んでいたら綾人に促されるように、肩を抱かれた。

「まぁ。失礼ね」

 唇を尖らせつつお母さんはどこか嬉しそうだ。それもあってお母さんに凌空のことをお願いし、リビングを出る。

「こっち」

「外に出るんじゃないの?」

 てっきり凌空と同じように庭に案内されるかと思ったが、綾人は中の方に歩を進めていく。

「俺の部屋。ずっと気を張り詰めっぱなしだっただろう? 少し休むといい」

 どうやら綾人なりに私を心配してくれていたらしい。大丈夫という言葉を飲み込んで、微笑む。

「ありがとう。せっかくだし綾人の部屋、見てみたい」

 白いお洒落な階段に見とれながら、二階に上がっていく。通された部屋に足を踏み入れた瞬間、つい綾人に尋ねる。

「これ、全部綾人の部屋なの?」

「全部って……」

 あきれた声が返ってきたが、私は大真面目だ。下手すると私がひとり暮らしで借りていた時の部屋より広い。
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