別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「可南子がそんな人間だなんて思っていない。むしろ逆なんだ。可南子は俺の実家のこととかパイロットに内定が決まってるとかそんなの関係なく接して、そばにいてくれて心地よかった。俺があえて水を差したくなかったんだ」

 確かに、実際に綾人の実家に足を運んで、あまりにも住む世界が違うと思い知るばかりだ。これがもし結婚の挨拶ではなく、付き合っている時に訪れていたら、彼との交際を怖じ気づいていたかもしれない。

 綾人だけを責められない、でも――。

「川嶋さんになら……そんな気遣いは必要ないんだよね」

 言わずにいようと思っていたのに、つい口が滑る。けれど心の中にある靄はごまかせない。

『私や綾人みたいな人間は常に自分に近付く相手にそういう疑いをかけちゃうのよね。だから家柄が釣り合って、似たような環境で育ってきた私たちが結婚するのはお互いのためだし、自然なことなの』

 綾人の言い分が理解できる一方で、彼女の言葉が引っかかっている。

「川嶋さんは、この部屋に来たことあるんでしょ?」

 こんな発言、かわいくない。綾人を困らせるだけだ。わかっているのに、止められない。

「ないよ」

 きっぱりと短く回答され、綾人の顔を二度見する。

「彼女がこの家に来るのは、父親についてくる時が大半で、だから無下にはできないけれど、この部屋には入れていない」

 綾人が実家に帰った際に、私が電話口で彼女の声を聞いた時、綾人は帰省するまで川嶋さんが来ているのは、知らなかったらしい。
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