別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「そうだな。凌空と同じで小さい頃から飛行機が好きというか憧れがあったんだけれど、具体的にパイロットになりたいって思ったのは、この企画に参加したのがきっかけなんだ」

 懐かしそうに語る彼の横顔をちらりと見つめる。

「この写真に写っている担当だったパイロットの人に、パイロットになるためにはどうしたらいいのか?って尋ねたら、まずは健康、周りをよく見て引っ張っていくリーダーシップ、それからなんでも貪欲に学ぼうとする学習意欲だって言われて……おすすめのスポーツはチームプレーのものがいいっていうのを真に受けて、サッカーを始めたんだ」

 高校までサッカーをしていて、留学経験もあると聞いていたが、それらはすべてパイロットになるための一部だったらしい。ストイックというか情熱的というべきか。

「でも、いざRHHの自社養成パイロットに内定した時、嬉しい半面、燃え尽き症候群とでもいうのか、どうして自分がパイロットを目指していたのか、わからなくなったりもしたんだ」

「え?」

 付き合っていた頃も聞いたことがない。初めて聞く話だった。綾人は写真から私の方に視線を移し、私たちはお互いに向き合う形になる。

「可南子に会った時もそうだった。周りからは内定に対していろいろな言葉を投げかけられたけれど、どれもピンとこなくてこのままの気持ちで厳しい訓練を乗り越えられるのか、本当にパイロットになれるのかって……でも、可南子が思い出させてくれた」

「私?」

 つい聞き返してしまう。彼にそんな高尚な言葉をかけた覚えなどまったくない。それとも私の記憶がないだけなのか。一生懸命思い出そうと悶々とする私の頭にそっと大きな手のひらが置かれた。
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