別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「綾人、アメリカ行く前に私との結婚を考えてくれていたの?」

 綾人のお母さんや、先ほど綾人も結婚について話していた。私の問いかけに綾人は腕の力を緩め、途端に気まずそうな表情になる。

「ああ。海外訓練の前に、待たせることになるけど可南子に結婚を申し込もうと思っていた」

 改めて彼の口から聞かされ、やっぱり動揺してしまう。

「両親に話して、指輪も用意して、あとは可南子に伝えるだけだってなって……」

 私が、他の人と結婚すると告げて 一方的に別れを切り出したんだ。

 思い出して胸が軋む。すると頭をそっと撫でられる。

「そんな顔するな、可南子はなにも悪くないんだ。こんなにも可南子とのことを考えているっていうのを勝手に免罪符にして、忙しくて可南子と向き合えない現状をそのままにしていた。俺の独りよがりだったんだ」

 私は首を横に振る。すると綾人はソファから立ち上がり、奥にある机の引き出しを開け始めた。ややあって彼は小さな正方形の箱を手に持って戻ってくる。

「可南子に渡そうと思ってた。必ず戻ってくるから待っていてほしい。その前に可南子を俺のものにしておきたいって……」

 ズキズキと胸が痛む。この何倍も綾人にはつらい思いをさせた。勝手に、綾人は別の人と結婚して幸せにしているんだって思い込んでいた。

 綾人は切なそうに手のひらの中の小箱を見つめる。

「別れてから、何度も処分しようと思ったけれど、可南子への想いが断ち切れなくて、未練がましくずっと持っていたんだ」

「あのっ」

 たまらなくなって反射的に声をあげる。
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