別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「図々しいお願いだとは思うんだけれど……綾人さえよかったらその指輪……もらえないかな?」

 最後は弱々しくなった私の頼み事に、綾人は目を丸くする。彼の反応は無理もない。けれど私は遠慮がちに補足する。

「婚約指輪として……つけたいの」

 今、私の左手の薬指に指輪はない。お互いの実家への挨拶前に、綾人が婚約指輪を用意したいというのを、私がやんわり断ったからだ。

 婚約期間はほぼないし、結婚指輪ならまだしも婚約指輪は必要ないと判断した。なにより婚約どころか、私たちにはすでに子どもがいる。凌空の相手をする際に婚約指輪をつけたままなのはきっと気を遣う。

 そんな理由を述べて、綾人は納得できていないながらも私の意思を尊重してくれた。綾人には伝えていないが、そこまでしてもらうのが申し訳ない気持ちもあった。

「だったら、もっといいものを用意する。三年以上前のものだし、今の可南子にぴったりな」

「ううん」

 私は小さく首を横に振った。欲しいのは婚約指輪という代物じゃない。

「遅くなったけれど……あの時の綾人の気持ちを受け取りたい……今さらだけれど、受け取らせてもらえる?」

 不安で声のボリュームがどんどん小さくなってしまう。ドキドキしていると、そっと左手を取られ、握られソファに座りながらも向き合う形になる。

「もちろん。今さらもなにも、可南子以外に受け取る相手はいないんだ」

 そう言って綾人は一度手を離し、小さな箱を開けた。
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