敏腕パイロットは最愛妻を逃がさない~別れたのに子どもごと溺愛されています~
 中にはオフホワイトのベルベット生地の重厚な指輪ケースがぴったり入っている。映画やドラマでよく見るシチュエーションに勝手に心臓が早鐘を打ち出した。

 ケースが開かれると、真ん中に圧倒的な存在感を放つひと粒ダイヤがキラキラと輝きを放ち、それをゆるいウェーブがかかった細身のリングが支えている。想像していたよりもダイヤが大きくて、今まで目にしたことがないような代物に戸惑いが起こる。

「はめてもいいか?」

「え? あ、うん」

 思わず間抜けな返答をしてしまい、なんとも締まりがなくて情けない。自分から欲しいって言ったのに。けれど綾人は笑みを浮かべながらケースから指輪を取り出し、私の左手を再び取った。

「本当は三年半前に渡したかった。でも、あのときも今も俺の気持ちはずっと変わっていない。望むのは可南子だけだ。俺と結婚してほしい」

 再会してから幾度となくプロポーズされたけれど、いつも綾人は真剣で心が揺さぶられる。

「はい」

 左手の薬指に奥まで指輪がはめられ、綺麗に収まった。どこか夢見心地なのに対し、ひんやりとした慣れない感触が現実だと物語る。

「ありがとう」

 泣きそうになりながらお礼を告げると、綾人は私の左手に自分の手を重ね、ゆるやかに指を絡めてきた。

「こんなふうに可南子に渡せる日が来るなんて夢みたいだ」

「夢じゃないよ」

 もらった私よりも嬉しそうな顔をしている綾人に、私は応えるように指先に力を入れた。

「サイズ、ぴったりでよかった」

 安堵めいて呟かれた言葉に、思わず苦笑する。
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