敏腕パイロットは最愛妻を逃がさない~別れたのに子どもごと溺愛されています~
「うん、びっくりしちゃった。指輪のサイズなんて聞かれてもないし、言ってもないのに」

 そういうところ、綾人は本当に抜け目ない。

「実は、凌空を生んでからちょっと体形が変わったと思ってたから、少し心配してたの」

 わざとらしく冗談混じりに切り出す。綾人が指輪を渡したかった頃の私と、今の私とでは随分変わった。

「変わらないよ、可南子は」

 私の心の内を読んだかのようなタイミングと言葉に、目を見張る。

「今も昔も、可南子は魅力的で可愛らしくて俺を夢中にさせる」

 しっかりと聞こえたはずなのに、意味を理解できず頭が追いつかない。そうしているうち綾人は指先を絡めてつないでいる手を自分の口元に持っていき、私の指先に口づけが、落とされた。

 その仕草につい見惚れていたら不意に目が合う。

「むしろ綺麗になった」

 おもむろに手を引かれ、ゆるゆると目を閉じると唇を重ねられた。綾人もあの頃から変わらない。甘いキスも優しいところも。けれど彼だって副操縦士という責任ある立場になって精悍さや貫禄が増した。付き合っていたとき以上に素敵になっている。

 胸を高鳴らせている間も、左手は彼にしっかりと捕まったままで、空いた方の手は腰に回され口づけは続けられていた。これでは先ほどの二の舞になる。

「そ、そろそろ凌空の様子を見に行かないと……」

 私からキスを終わらせ、さりげなく切り出す。あからさまだったかと思ったが、綾人は私の頬を指先でそっと撫でた。

「そうだな」

 先に立ちあがった彼に手を差し出され、私はおとなしくその手を取り立ち上がった。無意識に髪を整え息を吐く。

「行こうか」

「うん」

 手を握り返して彼に続く。左手の薬指に指輪ははめられたままで、照れくささと嬉しさで笑みがこぼれそうになった。
< 123 / 189 >

この作品をシェア

pagetop