敏腕パイロットは最愛妻を逃がさない~別れたのに子どもごと溺愛されています~
「おとーさん、こっち!」

「これは、ここにのらないんじゃないか?」

 凌空に手渡された大きな三角の積み木を持ち、凌空の指示に綾人が苦笑しつつ答えた。それでも凌空の意見を聞きながら、あれやこれやとふたりで高く大きくしていっている。

 その光景を眺めながら、胸がいっぱいになる。どこか夢を見ているような感覚で、まだ実感が湧かない。

 両家の挨拶を済ませ、先日私と綾人は婚姻届を提出した。ふたりで見に行った結婚指輪は、綾人が婚約指輪と重ねづけできるようにと同じメーカーのものでそろえ、彼の左手の薬指には私と同じデザインの指輪がはめられている。

 名字が変わった実感があまりない……と言いたいところだが、会社に提出する書類やもろもろの名義変更のため何度も【進藤可南子】と書きつづった。

 保育園での凌空の名字は、来年進級した際に変えるという話で落ち着いた。私も職場では担当のクライアントもいるのでしばらくは旧姓でいるつもりだ。

「つぎ、こっちー」

「その前に凌空、片付けをしてからな」

 積み木は満足したらしく、凌空は場所を移動するように綾人を誘う。きちんと箱に積み木を戻し、隣に移動すると、壁に自由に絵が描ける仕組みになっていた。

 凌空はペンをとって嬉しそうに描き始める。

「凌空、嬉しそうだな。こんなことなら朝からくればよかったか」

 そっと凌空から私の隣に移動してきた綾人が呟いた。
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