別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません

「凌空、あの飛行機よりもっと高いところが見える乗り物にしないか?」

 そう言って、綾人が体の向きを観覧車の方に向ける。

「ほら。空がよく見えるぞ」

「りく、あれにのるー」

 凌空はすっかり機嫌を取り戻し、観覧車に心を奪われているが、私の足は止まった。

「わ、私はいい。ふたりで乗っておいでよ」

 観覧車なら凌空も一緒に楽しめるし、高いところからの景色も思い出になるだろう。けれど、私は遠慮願いたい。

「おかあさん、いこうー」

 凌空が不安定にこちらに手を伸ばしてくる。綾人が彼の足とおしりをしっかり支えているので心配ないが、彼の必死さに胸が痛む。でも幼い頃から根づいている 高いところへの苦手意識がずっと消えない。

「無理はしなくてもいい。でも、可南子の好きな空が今なら綺麗によく見えるよ」

 綾人の言葉にちらりと空を見る。太陽は西の空に傾き、青かった空がほのかにオレンジ色がかってきた。確かにこの空を高いところから眺めたら、きっと綺麗だとは思う。

 凌空の初めての遊園地の思い出に、なるかな?

「大丈夫、俺がついてる」

 揺れている心を見透かしたかのように綾人が声をかけてきた。ゆっくりと回っている観覧車と綾人の顔を交互に見て、私は意を決する。

「ずっと手を繋いでてくれる?」

「もちろん」

 子どもでもあるまいし。でも綾人は茶化すことなく笑った。
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