別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「たかーい」

「凌空、動かないで! ジッと座ってて」

 勇気を振りしぼってゴンドラに乗り込んだものの、なかなか景色まで楽しむ余裕はない。凌空はいつも私に言われているからか靴を脱いで座席に膝をついて、まだそんなに高くないうちから外を眺めている。

 綾人は私が言った通り、隣に座ってぎゅっと手を握ってくれていた。大人ふたりが同じ座席に座っているので、ゴンドラがやや傾いている気がするが、この際無視しておく。

「視線は足元や下じゃなくて、極力遠くに持っていった方がいい。息は止めずに、ゆっくりと吸って」

 冷静に指示されてうまくできるなら苦労していない。

 外の景色や実際の高さがどれくらいかなどではなく、これはもはや高いところは怖いという刷り込みレベルの問題だ。

 ちらりと前を見ると、凌空は目をキラキラさせて外を見ている。その横顔に少しだけ気持ちが落ち着いた。

 きっと私ひとりでは凌空を観覧車に乗せてあげられなかった。綾人の存在に感謝するのと同時に家族三人でいられているこの状況が夢みたいだと思う。

 隣には綾人がいて、凌空が嬉しそうにしている。現実だ。

「それにしても、凌空が思った以上に早く俺のことを父親だって受け入れてくれて驚いているよ」

 ふとした綾人の呟きに、目を瞬かせる。凌空に綾人が父親だと告げてから一カ月も経っていないが、どこまで理解しているのかわからないものの凌空は想像以上にすんなりと綾人を父親と認識しているようだ。
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