別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
 さすがに怒るだろうかと綾人の反応をうかがったら、不意に手を引かれ空いている方の手を肩に回され抱き寄せられる。

「不思議だったんだ。可南子は飛行機が苦手なのに、どんなきっかけで凌空はあそこまで飛行機を好きになったんだろうって」

 確かに、ある程度自分の意思がしっかりするまで、幼い時の子どものおもちゃは本人より親の意向が大きいと考えるのが普通だ。

「そうか。可南子が最初から、俺を凌空の父親にしてくれていたんだな」

 そんないいものではないと否定しようとしたら、不意に唇を重ねられる。すぐに唇は離れたものの驚いて反応できなかった。

「あー。ひこうき」

 凌空が興奮気味に空を見て叫んだ。私もつられるようにして外を見ると、青空の下にオレンジ色が混ざった空の向こうでピカピカと光る機体が移動している。

「本当だね、どこに行っているんだろう?」

「りく、ひこうきのりたい!」

 興奮で体を揺らす凌空を、ひとまず落ち着かせる。その約束もちゃんと叶えないと。

 綾人はそっと凌空の頭を撫でた。

「そうだな、だったら凌空。今度お父さんの操縦する飛行機にお母さんと乗ってみるか?」

「のる!」

 反射的に凌空は答えたが、私は綾人に視線を移した。

「付き合っていた頃、いつか俺がパイロットになったら俺の操縦する飛行機に可南子を乗せるって約束したの、覚えている?」

「覚えているよ」

 忘れるわけがない。あの頃は、綾人が副操縦士になるその時まで一緒にいると信じて疑わなかった。
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