別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
 広い玄関から見える光景はあまり変わっておらず、懐かしさと苦い記憶が一気によみがえる。またここに足を運ぶ日が来るなんて思いもしなかった。

 余計な考えを振り払い、リビングに歩を進めると段ボールが乱雑に転がっていた。棚の本を入れようとしている途中らしく、綾人なりに引っ越しの準備を進めてくれているらしい。

 手を洗い、さっそく作業を開始する。

 付き合っていた時にはなかった、難しそうな専門書がどっさりある。英語で書かれたものや手作りの資料、何度も引かれた後のある辞書などから綾人の努力がうかがえた。

 副操縦士の資格を取るのも実技と勉強の繰り返しだったと聞いている。でもそれは、副操縦士になったとしても変わらないんだ。

 私や凌空と一緒に暮らすことが、綾人にとってプラスになるのかな?

 凌空はまだまだ小さいし手もかかる。子どもと一緒に暮らすと自分のペースだけで生活はできない。もちろん綾人も理解しているだろう。

 でも住み慣れたマンションを離れ、生活スタイルまで変えて、綾人の負担が大きすぎるんじゃないだろうか。

 不安に駆られ、頭を振る。こうやってひとりで抱え込んで考えすぎるのはよくない。

 しばらく黙々と作業しリビングの書物類はだいぶ片付いた。そこで寝室にも大きな本棚があったのを思い出す。

 勝手に入ってもいいものか、と悩みつつ自分がここに来た目的や、部屋に上がって作業していいと鍵まで預かっているのだ。
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