別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
 夫婦になったんだし……いいよね?

 間取りはわかっているので、迷わず寝室に進む。誰に気を使うわけでもなくドアをそっと開け、中に足を踏み入れて目を見開いた。

 綾人、いたんだ。
 ベッドにはそのまま仰向けになって眠っている綾人の姿があった。胸に置かれた手に本を抱えているところを見ると、読みながら寝てしまったのか。

 一気に心臓が加速し、息を殺した。どうするかしばし悩み、そっと彼に近付く。

 綾人の寝顔を見るのは久しぶりだ。閉じられたまつ毛は長く、いつもより幼い印象を抱かせる。こっそりと彼の無防備の寝顔を見るのが好きで、幸せを噛みしめていた。けれど今は胸が締めつけられる。

 ひとまずなにもかけていないのが気になり、タオルケットでもかけようと畳まれているものに手を伸ばした。

 疲れている……よね。

 昨日だって仕事が終わってそのまま私と凌空と遊園地に出かけ、休む暇などなかった。いつも私や凌空の都合を最優先してくれて、引っ越しの手続きだって綾人に任せっぱなしだ。

 パイロットで一番大切なのは健康だって言っていたのに。

 そっと彼にタオルケットをかけると、うっすらと彼の瞼が開き、黒い瞳が姿を現した。思わずそのままの姿勢で硬直する。

「可、南子?」

 寝惚け眼で名前を呼ばれ、私は慌てた。

「ご、ごめん。起こし――」

 次の瞬間、目を見開いた綾人が素早く体を起こし、私の腕を引いた。あまりにもとっさのことでベッドに乗り上げる形で彼の腕に収まる。
< 136 / 189 >

この作品をシェア

pagetop