別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
 頭を撫でられる感触に重い瞼をそっと開ける。

「可南子」

 次の瞬間、意識がはっきりとして頭を上げた。なにも身にまとっていない私に対し、ベッドサイドに立ってこちらを見下ろしている綾人はきっちり服を着ている。

「凌空の迎えに行ってくる」

「今、何時!?」

 彼の言葉に時計を探す。確かに保育園までの距離を考えると、そろそろマンションを出た方がいい。

「私が」

「いい。俺が行くよ」

 慌てる私を綾人が制し、頭に手を置かれる。

「でも……」

 彼に任せていいのか悩む。昨日に続いて、綾人の貴重な休みを私や凌空に使わせてしまって大丈夫なのだろうか。

「俺も凌空の父親なんだ。凌空を連れて帰ってくるから、可南子はここで待っていてほしい」

 私の迷いを読んだのかのような綾人の言い分に、今度は首を縦に振る。

「うん」

「さすがに服は、着ておけよ」

「わ、わかってるよ!」

 からかい混じりの綾人に間髪を容れずに答えた。綾人はくすっと笑みをこぼす。

「凌空が帰ってきたら、可南子は〝凌空のお母さん〟になるからな」

 そう告げる綾人の口調がどこか寂しそうに感じ、私は思わず返す。

「凌空がいても私が〝綾人の奥さん〟なのは変わらないよ」

 慰めではなく本心だ。今のところ、妻らしいことはなにもできていないけれど……。

「そうだな」

 頬を撫でられたかと思ったら、腰を屈めて顔を近付けられる。目を閉じると唇に温もりを感じた。
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