別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
　鍵と財布とスマホを確かめ、私も外に出る準備をした。

　マンションのエントランスを出ると、太陽は地平線へ近付いていき、湿っぽさの混じったまだ熱い空気が肌をかすめる。さっさと買い物を済ませよう。

　一歩踏み出したその時、視界にある人物が映った。

「こんにちは、偶然ね」

「川嶋、さん」

　優雅に声をかけてきたのは、綾人とかつて付き合っていて婚約者だと名乗った川嶋多恵さんだ。

　以前会った時よりも彼女の髪の色は明るくなり、短くなっているがすぐにわかった。会うのは二回目なのに、彼女の声も姿も脳裏にしっかり焼きついている。

「あら、覚えていてくれたの？」

　意外そうに笑うが、相変わらず目が笑っていない。私はその場から動けず硬直してしまった。

　彼女がどうしてここに？　まさか綾人に会いに――。

「綾人のご両親から結婚したって聞いたの。相手があなただって聞いて驚いたわ、しかも子どもまでいたなんて」

　彼女はゆっくりと私との距離を詰めてくる。

「随分したたかじゃない。子どもを盾にして結婚に持ち込むなんて」

　小馬鹿にしたような言い方に思わず反論する。

「違います。子どもがいたから結婚したんじゃありません。すれ違いがあったけれど、私も綾人もお互いを想っています」

　以前、一方的に彼女の言い分を聞いて、綾人ときちんと向き合えないままいろいろなことが重なり別れてしまった。けれど今は綾人がどれほど私を愛してくれているのかわかっているし、私も自分の想いを彼に伝えている。
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