別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
　あの頃の不安定な関係ではなく、結婚して夫婦になった。

　しかし川嶋さんはおかしそうに笑った。見下すような冷たい目で口角を上げる。

「よく言うわ。別の男と結婚するからって綾人を裏切ったのに？」

　どうして彼女が知っているのか。綾人から聞いたのか。内心、動揺しながらも私は冷静に返す。

「それは……事情があったんです。私が好きなのは今も昔も綾人だけで、綾人以外の人を好きになったわけでも結婚したかったわけでもありません。あの時は――」

「関係ないわよ」

　私の言い訳めいた説明を遮り、川嶋さんは強気な目線を送ってくる。

「あなたがどんな理由で綾人に別れを告げたのかなんてどうでもいいの。だって綾人より優先するものがあって、彼を切り捨てたんでしょ？　捨ててもいいって思ったんじゃない」

　彼女の言い分が、そのまま 胸の奥に刺さった。否定どころか言葉に詰まってなにも言えない。

「私だったらどんな事情や理由があっても別れない。綾人が一番大事だから。それをあなたはしなかった。子どももいるし、綾人が優しいから結婚できたんでしょうけれど、あなたみたいに綾人を一番大事にできない人が、彼を幸せにできるわけない。また裏切って傷つけるに決まっている」

「そんなことありません！」

　私はもう二度と綾人を裏切ったりしない。そもそも別れを告げたのも、川嶋さんの存在と実家のことがあったからで……。
< 145 / 189 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop